平成12年 8月17日              11時10分 〜 12時20分
         

講義「情報化の方向性・情報教育と社会」

                       講師:神奈川県立平塚ろう学校教頭
                                  田村 順一
(研修内容)
【情報化の方向性】
○教育の情報化は、現在緊急課題となっている。その中でも何よりも必要なのは人材育成であり、本研修もそのためにある。
○情報教育の位置づけ−現在の学校現場では、コンピュータや情報通信ネットワーク等の情報手段を教育活動に使っていれば、それはすべて情報教育であると考えている場合もある。しかし、例えば、コンピュータを利用して算数でドリル学習をすることなどは、あくまでも算数・数学の目標を達成するための教育であって、「情報活用能力」の育成を主たるねらいとした教育とは区別すべきである。教育活動が効果をあげるには、教員が明確に目標を意識し、その達成に向けた意図的、計画的教育活動を編成することが不可欠だからである。逆に言えば、各教科等においても、「情報活用能力」の育成を目標とした教育活動は可能であり、また必要である。
○情報教育の目標とカリキュラムの体系化− 「情報化の進展に対応した初等中等教育における情報教育の推進等に関する調査研究協力者会議」では、今後の初等中等教育段階で育成すべき「情報活用能力」を以下のように整理し、情報教育の目標として位置づけることを提案した。(1)情報活用の実践力 課題や目的に応じて情報手段を適切に活用することを含めて、必要な情報を主体的に収集・判断・表現・処理・創造し、受け手の状況などを踏まえて発信・伝達できる能力 (2)情報の科学的な理解 情報活用の基礎となる情報手段の特性の理解と、情報を適切に扱ったり、自らの情報活用を評価・改善するための基礎的な理論や方法の理解 (3)情報社会に参画する態度 社会生活の中で情報や情報技術が果たしている役割や及ぼしている影響を理解し、情報モラルの必要性や情報に対する責任について考え、望ましい情報社会の創造に参画しようとする態度
 なお、実際の学習活動では、情報手段を具体的に活用する体験が必要であり、必要最小限の基本操作の習得にも配慮する必要がある。(ここでいう情報手段は、コンピュータ等の情報機器や情報通信ネットワーク等を指す。)
○情報手段を活用する上での留意点−学習活動においては、情報手段を適切に活用することが必要である。そのためには、機器の基本操作を習得させることが不可欠になるが、小学校段階では、「情報活用の実践力」を育成する学習活動の中で、慣れ、親しみながら習得させることを基本とすべきである。また、具体的で直感的に理解できるものから、徐々に自由度が高く、抽象度や応用範囲の広いものを学習の題材として用いたり、あるいは、学習内容の広がりに対応して学習の幅を学校外に広げることや、課題の発見、情報の収集、調査結果の発表などに役立つ情報通信ネットワークの活用を取り入れることが望ましい。○新しい学習指導要領で情報教育はますます充実する−平成14年度から小学校・中学校で、また、平成15年度から高等学校で、新しい学習指導要領に基づく教育課程が始まる。
高度情報化が進展する中で、これからの子どもたちには、コンピュータやインターネットなどの情報手段を使いこなし、溢れる情報の中から適切な情報を選択・収集・加工・分析することにより自ら問題を解決するとともに情報を積極的に発信していくことが求められる。また、その際高度情報化社会に対応できる情報モラルを育成することも大切である。情報教育のねらいは、このような情報活用能力を、適切に育成することにある。
○情報教育の環境整備−国では、地方交付税措置により、学校のコンピュータ整備やインターネット接続など情報教育を充実させるための環境整備を進めている。
 ●コンピュータの整備計画−平成11年度までに教育用コンピュータの整備水準を小学校で22台(児童2人に1台で指導)、中学校・普通料高等学校で42台(生徒1人に1台で指導)、盲学校・聾学校及び養護学校で8台(児菫・生徒1人に1台で指導)に引き上げることとし、これに必要な経費が、地方交付税により措置されている。コンピュータ1台あたり…年間約14万円(レンタル/リース方式)  平成11年度財源措置額…約1,200億円
なお、ソフトウェアについては、コンピュータ1台につき年間約6〜10万円が6年間にわたり措置されている。
 ●インターネットの接続計画−すべての学校が平成13年度までにインターネットに接続することとし、これに必要な経費が地方交付税により措置されている。なお、学校のインターネット利用にかかわる通信料については、平成11年中に割引料金が適用されることになった。平成11年度の1校あたりの年額(通信料及びブロバイダ経費等)…小学校・中学校‥13万2千円、高等学校・盲・聾・養護学校‥15万2千円
○すべての先生の指導力が必要−新しい教育課程では、小学校から高等学校までの各学校段階を通して、各教科や総合的な学習の時間において、コンピュータやインターネットなどを積極的に活用した学習が行われる。したがって、すべての先生がコンピュータ等を活用して指導できることが求められている。国や都道府県におけるリーダの育成、各学校における校内研修を活性化することにより、平成13年度までには、すべての先生が指導に必要な基本的な操作ができるようになることを目指している。なお、これらの研修の実施にあたっては、教育情報衛星通信ネットワーク(エル・ネット)を効果的に活用することとしている。また、教員養成課程においては、「情報機器の操作(2単位)」が必修化される。
今までの先生は、自分がすべてを理解してから、子どもに教えていくというスタンスをとっていた。しかし、これからは、「子どもと一緒に学ぶ」「子どもが先にいってもよい」「別の部分でサポートできればよい」といった姿勢で指導していくことが大切である。
○情報教育は子どもたちの生きる力の育成に貢献する− 新しい教育課程は、子どもたちの「生きる力」を育成することをめざしている。「生きる力」とは、社会の変化に対応し、自ら学び、自ら考え、主体的に判断・行動し、よりよく問題を解決する力、他人を思いやる心や感動する心などの豊かな人間性を含めた総合的な力である。コンピュータやインターネットを活用した学習は、いろいろな面で、この「生きる力」の育成に貢献すると考えられている。
【情報化社会と教育】
○日本の情報化−我が国のコンピュータの整備状況や、インターネット接続計画は、海外諸国と比べて、決して十分なものと言えるものではない。
○情報を発信する−インターネットを学校教育で利用する際には、生徒が自ら情報を発信して社会と能動的にかかわりを求めていくことや、自分からインターネットという世界に参加していく姿勢を持つことを教えていかねばならない。そのことが、お互いの持つ知識や情報の共有化をとおして、人種や国境・文化の違いを超えてお互いを支援しあうといった、新しい世界秩序を創造していくことになる。
○地域格差−情報の共有によって国や地域の相互理解が深められ、さまざまな文化の違いや誤解・偏見なども乗り越えやすくなる。 
○文化の融合−学校教育においても、文化の融合や地域・習慣の違いなどを相互に理解し合うようなアプローチが必要となる。そのために必要なものは、@事前の調べ学習や、語学等も含めたコミュニケーションスキルを高める教育 Aお互いの文化や価値観・歴史や習慣の違いなどを十分に理解し、それを思いやるような、適切な「心を高める教育」である。インターネットを利用した授業の中では、情報収集の点からこうした学習が以前より容易になるといえる。
○平等な社会−宗教や人種・性別の違い、障害の有無など、これまで社会において何かと相違点として受け取られ結果的に差別や偏見のもとになりがちであった事象についても、ネットワーク社会では全く対等で公平に扱われることになる。障害のある人で、「通常のコミュニケーション手段では話せない」「文字を書くことができない」などのコミュニケーションの上での困難性を持っている人の場合には、通常の交流場面ではどのように意思を交流させればよいか迷うことも多い。ネットワーク上での交流場面では、コンピュータの入力支援機器(アクセシビリティ機器)で、相互の意思交換を容易に行うことが可能である。またこうした顔が見えないコミュニケーションの場合には、交流相手が障害者であるということを意識していない、あるいは全く気づかないというケースもよくある。このように直接面と向かっては構えてしまうような交流も、遠隔コミュニケーションであるネットワーク上では、かえって平等な関わりを可能にする場合もある。
○社会の成熟−上例のようにネットワーク社会の持つ覆面性・匿名性は、マイナスに作用するばかりではない。プラスの面として、個々の参加者への主体性を要求する。公平なかかわりをもたらす結果にもつながる。だからこそ、ネットワーク社会に参加する倫理や責任などといった、マナーや姿勢(ネチケット)が生徒たちにも求められる。   
○情報化社会で必要とされるスキルは、工業化社会で必要とされるスキルとはちがう。自己主張をし、自分なりのアイデアを出し、自分で調べ、自分で判断するなど、自己決定力があるかどうかが問題となってきた。そのような力を身につけさせられるような学校環境になっているか? 今までの学校教育には限界がきている。学校のシステムができていない。ネットワーク回線をつなぐことや子ども達のスキルを育てることなどは、緊急課題となっている。
 
(所感)
 教育の情報化が緊急課題となっており、そのための人材育成として本研修があることを知った。しかも本研修で各県や市でのリーダーを養成することが目的であることを知らされ、責任の重大さを感じた。私に務まるのかと不安にさえ思ってしまった。
 「コンピュータを使って、子ども達をどう変えるのか。どういう子どもを育てるのか。これが一番大事である。教師は、コンピュータが苦手だからと言って教えないわけにはいかない。子供と一緒に学び、たとえ子どもの方が先に行っても、別の部分でサポートできればよい。」と熱く語る先生の言葉が印象的であった。 

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